広く浅く

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本の感想。ジャンルは文芸・ファンタジー・SF・ミステリ。ほのぼの系が好き

読み応えのあってスケールの大きな物語(夢見る帝国図書館 中島 京子)

夢見る帝国図書館 中島 京子

夢見る帝国図書館

あらすじ

とある女性の人生と国立図書館設立までの話


作家志望のフリーライターとして過ごす日々のわたし。
この日もフリーライターとして国際子ども図書館を取材した帰りだった
公園のベンチに座るわたしの側に腰を下ろした1人の女性・喜和子。短い白髪頭をして、孔雀を思わせる端切れを合わせたコートを着ていた。
喜和子さんのペースで世間話をして、自分が小説を書いていることを話すと喜和子さんも書きたいものがあると言う。当たり障りないときには小説を書いてるなんてこと誰にも言わずにいたのに、何故か喜和子さんには言えたのだった。
連絡先も交換せず、別れた2人は上野で再会する。
また国際子ども図書館に取材に行くというわたしを、立ち話はなんだからと自らの家に招く喜和子さん。
その自宅で喜和子さんから頼まれたのが、「上野の図書館のことを書いてみないか」という誘いだった
詳しく聞くと、自分でも書いていいが出来そうもない、とのこと。しかも物語の主人公は図書館だという。
物語を考えついたのだったら、考えついた人のものだと言いはるわたし。実は題も決めてある「夢見る帝国図書館」という喜和子さん。そして語られる国立図書館が出来るまでの物語。

 

感想

最初の音頭を取ったのが福沢諭吉だということにびっくりしたし、この図書館が出来るまでに紆余曲折を経るわけだが、そこまでに図書館を利用した人たちの名が凄い。幸田露伴夏目漱石樋口一葉谷崎潤一郎芥川龍之介宮沢賢治などなど名だたる文豪達が図書館を利用していたのである。

樋口一葉に至っては、この作中で図書館が樋口一葉に恋をするという設定で物語られている。面白い。

ともすれば、後々になりがちな人命に関わるわけでもない図書館の設立に奮闘する人々と
謎を呼ぶ喜和子さんの人生が交互に語られる

愛人だったという喜和子さんと元大学教授の古尾野先生
2階に間借りしている藝大の学生雄之助
愛人だったときに恋をした元ホームレスの五十森
そして作家志望のフリーライターのわたし
喜和子さんという人物に関わった人々

後半の謎解きをする場面からめくるページが早くなったのは、やはり私がミステリ好きだからか

スケールの大きな話で図書館を物語の主人公にという話を考えた喜和子さんは、やっぱり図書館が本が好きだったのだろうか。図書館に入ろうともせずにいたから違うかも知れないが、樋口一葉全集やその他の本を持っていたから本好きではあろう。

合間合間に挟まれる、作中作の『夢見る帝国図書館』は、やはりファンタジーめいていた
樋口一葉に恋したり、略奪図書たちの呟きだったり、隣接する動物園の動物たちの思いを言葉にしたり

中島京子さんの本は「小さいおうち」に続いて2作目となる
小さいおうちも一人の女性の人生を綴ったものだった
どちらも読み応えのある作品でした

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