さざなみのよる 木皿 泉
癌で亡くなったナスミを取り巻く人々の話
てっきり、癌でなくなったというしナスミの人柄とかナスミという名前から(偏見)もっと高齢の女性を想像してたけど、終盤にかけて分かってくるナスミの交友関係と実際の年齢を聞いて驚いた。43歳。若い。それを踏まえてみても、癌で亡くなる時の心境とか夫に話す内容とかが達観して穏やかでいられるっていう凄さ。周りの人もナスミに明るさに照らされて、その達観具合にひどく落ち込むことはなくみんな前を向いて歩いていた。夫の日出男もナスミの変な名付けグセ(人のことをひらがなだったりかたかなだったり名付けてしまうというもの)も聞けなくなるのかと哀愁漂わせているが、後に再婚し子供ももうけることが出来た。一人で生きていくのが辛いとか誰かに支えて欲しいだとか、そういったことは描かれてはない。だが、やはり人は人を求めるものだから、一人で生きていたくないものだから。
ナスミが学生時代に家出をしようと誘った、今では立派に妻もいる清二と利恵夫婦。家出をしようとしたが結局待ち合わせにナスミは来ず清二一人が取り残されたという思い出。その真相を、利恵がその昔家出をしようとした時に駅で偶然居合わせたナスミ本人から聞くことになる。そして利恵は家出を踏みとどまった。
他にもナスミが働いていた職場の同僚加藤由香里。彼女は妻子持ちの上司と付き合っていたが、妊娠し知らぬ間に堕ろされてしまう。それを知ったナスミが上司の送別会で上司を殴ったのだった。言いがかりだという上司にナスミも殴られて歯が2本かけてしまう。そして由香里は会社を辞めたが、その上司の紹介で念願だった出版社への勤務をしていた。子供の代わりに仕事を得たという由香里だったが、ナスミはお金にかえれないような仕事をするんだよと由香里を激励する。そして由香里にある頼みをしたのだった。
この頼みというのが最後にかけてキーになる。文字通り光り輝いてみんなを見守っていたナスミ。
死後の小説なので陰鬱になりがちだが、読了感は由香里に頼んだあることで温かいものになった。
本屋大賞ノミネート作品