広く浅く

広く浅く

本の感想。ジャンルは文芸・ファンタジー・SF・ミステリ。ほのぼの系が好き

400ページを超える、濃い物語 『彼方の友へ』ー伊吹有喜

『彼方の友へ』ー 伊吹有喜

彼方の友へ

 帯の下には

こちらの本のおもて表紙には帯があるので隠れているが

手にお持ちの方は、本の下部にうっすらと白抜き文字で描かれた

単語を読み終わってから、見てほしい

別に、読む前でも構わない

そこには「Dear friends」裏表紙の同じ箇所には「Sincerely yours」

と印字されている

これは本文中にも出てくる、非常に重要な単語である

主に意味としては、拝啓・敬具の意味を持つ

私個人はdearという親愛なるという意味が好きで

この小説で改めてその対極となるSincerelyという単語だということを知った

 

あらすじという名の

小説の時代が昭和のはじめ

戦前・戦後を生き抜いた少女がいた

大好きで大切な『乙女の友』という雑誌に携わった人々達との

一口にお仕事小説と言ったら軽々しく聞こえてしまうくらい

重々しく、熱い話

 

出版業界の編集者として、執筆者として

どうにもできない、だが

あこがれと尊敬の『乙女の友』の主筆・有賀のそばで働けるという

支えがあってこそ

小学校しか出ていないという、学力的教養的に引け目を感じながら

それでも歯を食いしばって

『乙女の友』の付録である花模様の『フローラ・ゲーム』の札をこっそり机にしまい、折に触れて見返し

生き抜いた、佐倉波津子の物語

 

感想

乙女がうっとりするくらいの詩を書く、有賀主筆

同じく絵やデザインなどを手がける、長谷川純司

華やかな印象の執筆者であり霧島美蘭

有賀のいとこ、佐籐史絵里

と言う登場人物に囲まれた、一見華やかな『乙女の友』の人物たち

有賀主筆と純司の二人なんて

どちらかが、ハツの恋の相手になるんじゃないかと思う

恋愛脳がいつのまにか、乙女の友たちのみんなの心情に入り込んでいた

400ページを超えて、私的には大作で

1時間読んでは休憩し、その間に『彼方の友へ』のことについて思いふけった

 

ハツが執筆者になったあと、反響がまったくないハツへ向けられた、

空井のエピソードが好きだ。

同じ境遇にいた空井が、ある日届いたファンレターに「ツヅキ、ハヤクヨミタシ」と大きく書かれており、「届いた」と感じたこと。

他にも思わず、涙腺がゆるくなった箇所があるので

おすすめだ

 

ちなみに

漢字をひらがなであえて出版物に載せるとき

『開く』という表現を使っていた有賀主筆

私も彼と同じ意見だ

開くと漢字で書くより、やわらかい印象になる

漢字の持つ意味もそれはそれで重要だが

場面によっては、ひらがなで表現するという手法

編集の場で使われていた事に、ちょっぴり嬉しくなった

 

ちなみにその二 

タイトルに付けた、「濃い物語」はもう一つ意味があるので

そちらも楽しみにして読んで頂きたい

 

1,302冊目

『彼方の友へ』 伊吹有喜

彼方の友へ

彼方の友へ

 

 

注目記事