広く浅く

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本の感想。ジャンルは文芸・ファンタジー・SF・ミステリ。ほのぼの系が好き

相反する2つの医術(鹿の王 水底の橋 上橋 菜穂子)

鹿の王 水底の橋 上橋 菜穂子

鹿の王 水底の橋

あらすじ

前作鹿の王の続編

続編と言っても、前作で主人公だったヴァンとユナは出てこない
代わりに医者であるホッサルとミラルが主人公

今回の話は『医療』に重点を置いたものだと言える
清心教医術とオワタル医術
それと次期皇帝争いに、ツガナが次期宮廷祭司医長へなることでのオワタル医術への驚異
ホッサルとミラルの恋の行方

 

清心教医術とオワタル医術

清心教医術とオワタル医術は相容れない関係で
現在、ホッサルがツオル国でオワタル医術を施術できるのは、ホッサルの祖父・リムエッルとホッサルが皇妃の命を助けたことがきっかけだった。それでツオル国の現皇帝ナタルは皇妃を救ってくれた恩でリムエッルを信頼している。

清心教医術とオワタル医術の違いが分かるシーンが、息切れをするという老女を診断するホッサルの場面
聴診器らしきもので、心臓の音を聞いただけで病名を言い当てる。
対する清心教医術は、患者の状態・顔色・表情・話し方・歩き方・息の匂い・舌の状態・目の状態・尿の色や匂いなど、全体を見て診察する。
オワタルはその当時珍しかった輸血なども施術の一手として取り入れていた。それに意図的に脈を止めたりすることで、この血管に流れる血がどこの方へ流れていくか、獣や人で観察を続けてきた。
また清心教医術は手の施しようがない患者を言わば安楽死させることも念頭において施術する。神の元へ安らかに旅立つ手助けをするのだった。

そう相容れぬ2つの医術であったが、オワタル医術を嫌っていたのが宮廷祭司医師・ツガナ
ただでさえオワタル医術はツオル国の清心教医術師達から嫌われている。
というのもツオル国では<医術師は神の指なり>という言葉があり、医術は神の教えに従って行われるべきとあり、そのため祭司達が施すのだった。
命を助ければいいというオワタル医術とは相容れぬ訳がそこにあった。

 

ホッサルとミラルの関係性

ホッサルはオワタル王国の末裔で身分も高い存在。対するミラルは平民。
二人が結婚して子どもを生んでも、世継ぎにはなれない。
そしてホッサルは身分の高い人を妻に迎えなければなれない。
実際縁談も何件かこれまでに来ていた。
そんな状況下でのふたり

登場人物紹介では、ミラルをホッサルの助手としてあって、今で言う看護師さん的立場なのかはたまた医者の卵なのかはわからない。けれどもアワナ候が「オワタルでは女人も医術を究められるのですな」という会話などから、おそらくミラルは医者の卵なのだと推測される。

ミラル、リホウとの縁談がホッサルにきたとき、来るべきときがきたと悟ってしまった
何故かって、リホウはホッサルが長年想いを寄せていた義理の姉ルリヤに似ているからだった
今までの縁談では気にならなかったが今回は違ったのだ
けれどもホッサルは、ルリヤに対して想っていた感情とはまた違う想いをミラルに感じていて、ミラルをやすやすと手放す気に離れないのだった

女の立場からするとヒヤヒヤもの。ミラルの気持ちも分かる。
でも心配いらなかったホッサルの気持ちはずっとミラルにあって、縁談なんかハナからお断りだった。
外伝とか出版されたらいいな。ホッサルとミラルのその後が読みたくなった

 

タイトルの意味

ところでタイトルの水底の橋
沈下橋と呼ばれるものらしい。洪水が起きたとき、周りに被害を大きくしないように水や瓦礫をせき止めず、水の底に沈むように最初から作る橋のこと。
なんでこのタイトルにしたのだろう。考えることしばし。この物語はホッサルが主人公で、一見リホウとの縁談や、次期皇帝候補のヒラウが毒殺されそうになって、ホッサルとミラルが審議に問われる場面もあった。
その際に受けた印象が、そう言えば沈下橋に似ている。ミラルを守り縁談を断り、あらぬ疑いをかけられても感情的にならず冷静に判断し異論を唱える。聞き入れるべき点は聞き入れ、申し立てるべき点があれば申立てていた。
だから水底の橋はホッサルの性格を性質を意味しているのではなかろうか。

それか、ミラルのことを言っているのかもしれない
最終的に、アワナ候の養子となり清心教医術を学ぶミラル。彼女がオワタル医術と清心教医術を結ぶ橋を担っていけば。そうしたらオワタル医術を憎むツオル国の祭司達も少なくなっていってほしい。

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