広く浅く

広く浅く

本の感想。ジャンルは文芸・ファンタジー・SF・ミステリ。ほのぼの系が好き

花が開こうとするそんな姿を人にも感じる(つぼみ 宮下 奈都)

つぼみ 宮下 奈都

つぼみ

6編からなる短編集

「あのひとの娘」と「ヒロミの旦那のやさおとこ」。なんだかちょっとはらはらする場面もあった。宮下さんだからドロドロした雰囲気にはならない信頼のもと読んでいたけれど、でもひょっとするかもしれないという思いがあった。

あのひとの娘」の学生の頃付き合っていたけど、ちょっとしたずれで別れたけれど自分はいつかまたよりが戻せると思っていた。けれども彼はそうは思ってなかった。彼は結婚し子供も出来て、娘が華道を習いに来る。自分は先生で、余計な思いで彼女の才能を見誤るのではないかと思っていた。が彼女に面と向かって好意を打ち明けられて、付き物がとれた。この付き物が取れるまでのなんとハラハラする思いか。なにかしでかすのではないかと、ヒヤヒヤした。最後の彼女のと学生時代から仲の良い男友達の打ち明け話、と付き物がとれた具合で読み終えたらホッとした。

ヒロミの旦那のやさおとこ」は、学生時代に仲の良かった女の子3人組。その中の一人ヒトミ。彼女が居なくなったと旦那が実家に訪れた話。やさおとこの彼と主人公の美波。探すのを手伝ってくれと頼まれるが、対した情報はなく、それどころか美波がやさおとこに惹かれているのではないだろうかと思わせる話の流れ。ひょっとしたら、やさおとこと美波かそれとも三好知花がいい仲になってしまうのでは?と思わせる内容にハラハラ。でも結局はヒロミは昔から変わらないヒロミで、惚れたというオスのライオンみたいな歩き方をしているヒロミだった。そんな頼もしいヒロミだが、母親の知れない子供を引き取り育てていたという母性もみせる。ヒロミに会うまではだらしなかったやさおことが心を入れ替えて、頼りなげにヒロミを探しに実家まで訪れるという惚れ方。最後はヒロミに嬉しい出来事も起きてめでたしめでたし。

 

ところでつぼみという題名が何故ついたのかがわからなかった。最初の3編は華道が出てきたけどあとの3編は花とは無関係。でも、花開く前の段階という比喩表現だったとしたら、頷ける。

 

6編の中では「なつかしいひと」がお気に入り。
母親が亡くなって、母方の祖父母の家に住むことになったぼくと妹とと父親。慣れない土地で、好きだった本も読めなくなった。ある日本屋に立ち寄ると一人の少女が本を選んでいた。どこかなつかしい顔をした少女が読んでいた本を見た時、まだ本屋に居た少女から本を勧められた。久しぶりに本を読んでおもしろかったことを、本屋で出会った少女に再開しその事を伝えるとまた本を勧められる関係が始まる。読み終わるとホロリと涙がこぼれ落ちそうになる、そんな読了感。

注目記事