ありえないほどうるさいオルゴール店 瀧羽 麻子
あらすじ
とあるオルゴール店にまつわる物語
短編集になっていて、物語の語り手は個々に違う。耳の不自由な子供を持った母親、別れそうな恋人、女子大生バンドの仲良し4人組、父親と仲違いをした息子などなど。
彼らの人生と日常を切り取った場面で訪れた、オルゴール店。薄暗い店内、所狭しと並べられたオルゴール、音が聞こえすぎる店主の青年。
オルゴールはオーダーメイドもしており店主の青年がお客の音を聞いてオルゴールにするというサービスをしている。
物語全編を通じて、お客の心に鳴っている音楽を取り立てて質問する訳でもなく、じっと耳をすませて音を聞く。そしてしばらくしたのち完成したオルゴールの音色を聞いたお客それぞれに訪れる驚きと喜び。
感想
終始語り手が第三者というか、オルゴール店主ではないのであくまでも読んでいる私はお客側から知り得る情報だけが伝わってくる。ちょっと残念なのがオルゴール店主についてもっと知りたかったので、掘り下げられなかったこと。唯一彼のことが知れるのが、オルゴール店にコーヒーの配達をしていた喫茶店アルバイトの女の子の話だった。そこではじめて、彼が聞こえすぎるため耳に補聴器のような器具を取り付けていたことがわかる。題名の由来となる「ありえないほどうるさいオルゴール店」というのは、うるさいほど聞こえすぎる店主の青年を指し示しているのだと分かる。
でも、店主がミステリアスでも仕事はちゃんとしていることが読んでいてわかる。彼のオルゴールを手にして聞いた皆が感動に包まれているからだ。一つの短編でも一冊の本が書けるくらいぎゅっと濃縮された物語なので、それがいくつも入っているお得感もあった。はじめの短編にはうるっとさせられたりもした。
第二弾とかシリーズ物になっても良さそうかなぁなんて思う。そしてその時には店主の事ももっと掘り下げて欲しいなぁと思った。