広く浅く

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本の感想。ジャンルは文芸・ファンタジー・SF・ミステリ。ほのぼの系が好き

一辺倒に言えないもの(そしてバトンは渡された 瀬尾まいこ)

そしてバトンは渡された 瀬尾まいこ

【2019年本屋大賞 大賞】そして、バトンは渡された

あらすじ

名字が4回も変わった女子高生・優子の人生の話

物語は優子の進路についての面談から始まる

その面談で担任の向井先生から、困ったことや辛いことを話して欲しいと言われ、特に話すことなどない優子は困る。名字が4回も変わったことから、さぞかし不幸や辛い目にあったのだろうという判断から、先生は優子にそう聞いたのだろう。だが、優子は思い当たる節はなかった。

家に帰って、父親の森宮に次に結婚するとしたら意地悪な人を、とリクエストする。なにも語るべきことがないことが逆に申し訳ない気持ちになる優子。だから作ればいいとリクエストしてみる。父親の森宮にしてみれば寝耳に水。すでに継母の梨花はそんな意地悪から程遠いところにあった。それに森宮から言わせれば、本物の不幸はただただつらくて苦しい時間が続くだけだ。とのこと。そんなことより、2個買ってあったプリンを2個とも森宮に食べられるなんて同情をひけると、その話は落ち着くのだった。

こうして森宮との生活を過ごしている優子も、ひとつ心懸かりなことがあった。それはこの平穏な生活がいつなくなってしまうかということだった。

合唱祭でピアノの伴奏をすることになった優子。家での練習は電子ピアノだったがやはり本物のピアノが欲しいと思わず父・森宮に告げた。欲しいものを欲しいと告げた時、やっぱりいらないと言い出す優子。何故か涙が出てきてしまった。それは過去にピアノを弾きたいと告げた時、急激に環境が変化したことがあったからだった。その当時暮らしていた母梨花が急に父親とピアノを用意して引っ越すことになったことだった。貧乏だった生活から一転、お手伝いさんもいるし家事もしなくていい、父親となる泉ヶ原は優しく見守ってくれる。だが何故か堅苦しかった。そんな生活も3年で終わりを告げる。中学時代を泉ヶ原と過ごした優子は、梨花の次の再婚相手森宮に引き取られる。しばらく三人で暮らしていたが、梨花が突然家を出てしまう。自分の居場所がまた無くなると思った優子だが、森宮がそのまま優子を育てると言ってふたりはまた一緒に暮らし始めたのだった。

 

感想

困ったことやつらいことか、それを先生に話せるのはよっぽど先生と親しくないと相談する気にもならないし、よっぽど困ってないと言わないと思う。で、優子の場合、帯にも書かれている通り引き取られる人にちゃんと優子は愛されていた。その愛し方は様々だったけれども。でも、なにもないわけじゃなかった。思わずトラウマになってしまった出来事もあったし、春がつらそうな話もあったし。でもそれを優子は乗り越えてきた、誰かに打ち明けたりはしなかったけれども、そばで愛してくれた親たちがいたから。愛されていると優子自身も理解していたから、だから世間一般でいう不幸ではなかった。

 

物語は第1章と第2章で物語られる。1章は優子の青春時代までを、2章は大人になってからの話。2章の内容が特に良かったと思う。幸せじゃないとは言えないけれども、1章では辛いことがあったから。2章で幸せなことが沢山あって最後はハッピーエンドになって、本当に良かった。

1章の中で、友達問題からクラスで浮いた存在になる話が、ヒヤヒヤしたけど持ち前の冷静さで切り抜けられた優子にホッとした。それなのに、父親の森宮とピアノ問題がきっかけでギクシャクしたときに悩むさまは、やっぱり突然環境が変わることが子供心にショッキングな出来事だったんだなぁって思う。し、森宮父のことを大事に思ってるんだなぁというのがよくわかる。

 

梨花が優子の本物の父水戸からの手紙を隠してたところは、そりゃないよっと思った。でも梨花は優子のこと愛してたし、結果論では一番優子のことを思って行動してたんだと思う。

 

本屋大賞を受賞したこの作品、受賞しただけはあると思います。親が離婚したからとかどうだかとか、そんなのって言えないけど、でも接する親たちが愛情を持って愛してあげれば子はわかるんじゃないかということがよく分かる作品だと思いました。

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