広く浅く

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本の感想。ジャンルは文芸・ファンタジー・SF・ミステリ。ほのぼの系が好き

様々な立場の女性たちの短編集(あなたは誰かの大切な人 原田 マハ)

あなたは誰かの大切な人 原田 マハ

あなたは、誰かの大切な人

壮大な恋愛小説かと思って読んだら違った

様々な立場の女性たちの短編集

 

印象に残ったのは、美容師で晩年まで働き続けた女性の葬式での話(最後の伝言)

彼女の夫はイケメンでろくに働きもせず女好きで遊び歩くような旦那だった

その地域のみんなが恋するようなイケメンだった

でも彼女はそんな彼を一生食わせてあげるから結婚して、っと一緒になった持ち主

だけどそんな女遊びを許していた彼女にも危うい時があった。彼の子どもだという乳飲み子を抱いた母親が美容室にやってきて別れてくださいっと言ってきた時。これには彼女をショックを受けて、ふらふらしている彼の元へ離婚届を持って会いに行った。彼は彼女を越路吹雪のリサイタルに連れて行って、彼女のファンだったんだと打ち明けた。それで彼女に似ていた妻を見て結婚を決めたそうな。その言葉を聞いた妻は離婚届を破いてしまった。

 

で、葬式でかかった曲も思い出の越路吹雪の曲だった。

なんとなくね。どれだけ酷い仲に見えても男と女ってのはわからないもんだなぁと思えた。

 

大切な人ってなにも恋愛だけだとは限らないよね。

 

それを表現したのが、美術館で働く女性に届いた、亡き父からの手紙(無用の人)

父は自己主張しない、しがないサラリーマンだった。何事も文句も言わず働き妻から小言を言われても反抗せず沈黙を貫くようなタイプの父だった。そんな父から届いた手紙。中には手紙ではなく鍵が入っていた。

しかも送り主の住所は実家からではなく、父が学生時代住んでいた家からだった。
新卒でアートスペースに就職が決まった時、反対されるかと思えば父からはおもしろいんじゃないのっと賛成してくれたのだった。その父から送られた物とは・・・

父の愛読書は岡倉天心の「茶の本」だった。そこには哲学があり茶の心理があった。寡黙な父にこんな一面があったのかと驚く私。

 

その父からのプレゼントとでも言えようか、学生時代住んでいた家を訪れるとなにもない部屋から見えたのは立派な桜の木だった。賃貸契約は2年間。亡き父からの、風景という名のプレゼント。

粋じゃないですか、亡くなってから娘のために残したプレゼントが期間限定のそこでしか見ることの出来ないものだったとは。
アートに興味がある娘に残そうとしていた一枚の絵。故人の思いが見えます。

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