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本の感想。ジャンルは文芸・ファンタジー・SF・ミステリ。ほのぼの系が好き

民や官吏が主人公の短編集(丕緒の鳥 十二国記 5 小野不由美)

丕緒の鳥 十二国記 5 小野不由美

丕緒の鳥 (ひしょのとり)  十二国記 5 (新潮文庫)

あらすじ

短編集。これまでの巻は王や麒麟を主人公にしたものだったけれど、今回は民や官吏が主人公。

表題の丕緒の鳥では、慶国の夏官・羅氏・丕緒の物語。羅氏というのは、役職の名前で祝い事の際に行う射儀という行事で使う鵲の陶器・陶鵲(とうしゃく)を用意する人のことである。この陶鵲を作らせたら右に出る者がいない羅氏中の羅氏と呼ばれている丕緒。かつては陶鵲を作ることに使命感ややりがいを感じていたが、今ではその影もない。というのも、鵲を射って陶器の壊れる音の綺麗さを追求することに疑問を感じたからだ。鵲というのはけして珍しい鳥ではない、普通によく見かける鳥だった。民のようだ。だから、陶鵲を射て喜ぶのは違う。そう丕緒は悟った。新王にも陶鵲を射るところを見て、権力の大きさを実感してもらわなければならないと思った。そうして、作った陶鵲は果たして・・・

落照の獄
柳国における、殺人を犯した人の罪をどうするかについての物語。
狩獺(しゅだつ)という名の男が、16件23人を殺害した。数々の殺人を犯した狩獺は、法によって裁かれるが判決にためらうことがあって国府にまで判断が託された。最終的に判決を決める立場の司刑・瑛庚(えいこう)に委ねれている。その判決は死刑、だがここ120年柳国では死刑が執行されていなかった。頼みの綱の主上は我関せずといった具合だった。それにもし死刑を執行してしまえば、これから先の死刑が多発してしまう恐れがある。しかも重度の犯罪が最近目立ってきている。それは国が傾き始めていることを意味していた。

青条の蘭
とある国で異変が起きていた。山毛欅(ブナ)の木が変色するのである。しだいに結晶化し石のように固くなった。山師の包荒(ほうこう)が持ち帰って調査するが、どう治療しても治らなかった。結晶化した山毛欅は何故か高く売れ、民たちは喜んだ。だが、山師の包荒だけは浮かない顔をしていた。というのも山毛欅は山の水を蓄える役目を果たしており、それが次々に伐採されると山がくずれる恐れがあるからだった。それに山毛欅の実を食べていた動物たちの餌がなくなると、動物たちが里に下りてくるのだ。最近ねずみが増えたことを知っていた、迹人(せきじん)の標仲(ひょうちゅう)は悟った。このままでは危ないと。そこから山毛欅の疫病を治すための苦労が始まった。それは、新種の花だった。やっと見つけた青条の蘭を増やしてもらおうと、王だけが願える里木に願ってもらおうと標仲自ら王のもとへと運ぶ旅が始まった。

風信
蓮花(れんか)という少女は、先王のふれにより母を殺され母を助けようとした父・祖父も次々と殺された。
幼馴染も死に、一人で行きていく決意をした蓮花は、暦を作る槐園(かいえん)に引き取られた。そこではあまり何もしなくてもよいと保護されるような形で引き取られたが、そこで働くどこか浮世離れした人々に興味を持った。そこから清白(せいはく)と支僑(しきょう)の手伝いをし始めた。セミの抜け殻を集めたり、ネズミが溜め込んだどんぐりの数を数えたりしていた。そんなある日兵が村を襲い・・・

 

感想

丕緒の鳥と風信で陽子の存在が王としてちらちら現れるのを読んでて嬉しく思うし、立派に王として民からの信頼を受け始めようとしてる瞬間を捉えて嬉しい。どちらにしても嬉しいことばかり。

風信で、引き取られた蓮花が暦を作るためにしている行為を浮世離れした人々だと言っていたが、子供の目から見るとそういう何をしているか分からなくて世事に疎そうだとそう見えるのか。っと思う。大人になった自分からすると、そのものが直接こう役立つとは知らないけど、巡り巡って何かの役に立つことをしているんだろうなぁとは考える。

印象深いのは「青条の蘭」、ラスト標仲の思いを託されたバトンが次々と王へと近づいて行く様は胸が高鳴る。終盤までどの国かが分からず、わかったときも調べてあぁあの国だったのかと知る。あの国もこういう時代があったのかと今更ながらに思う。

落照の獄、では瑛庚の悩みもわかるし民の訴えもわかる、だから最終的に下した決断が知りたかったのに結末は語られず仕舞い。でも国が傾き始めているということはそういう結末に終わったのかなぁっとも思い、残念だった。

 

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